LOGIN「うおおおおおっ! あったぞーーー!! 本当にここにあった!!」
天井裏から猛の歓喜が弾けた。高々と掲げられた『思索する猫』は、まぎれもなく今回の演習で捜し求められていた本物だ。 美術室にいた全員――新入生、教官、そして容疑者役の上級生にいたるまで、吸い込まれるように息をのむ。驚愕はすぐ囁きへ変わった。 「なっ……換気ダクトだと!?」 「天井裏に隠すなんて……誰が考えつくんだ」 「というか、どうやってあそこまで……?」 想定外の出所に現場は沸騰する。埃まみれになりながらも器用に降り立った猛は、注視の中心に立ち、得意げに胸を反らした。 彼の胸中には、外で掴み損ねた手がかりを自分の手でここへ引き戻した、高鳴りがまっすぐ燃えている。隣では白河が小さく頷く。控えめな仕草だが、眼差しには確かな達成の光――「見えない線は、確かにそこにあった」という確信が灯っている。 さらに、青野は口角だけで笑い、「ここからは僕の番だ」と思考を切り替えた。 「――皆さん、少々よろしいでしょうか?」 ざわめきを裂くように青野が一歩前へ。通る声が自然に場を制した。彼は壁際に並ぶ容疑者役三名――小鳥遊、熊谷、姫川――に順々に視線を配り、全体へ向き直る。その瞳には揺るがぬ自信が浮かんでいた。 「我々チーム『ラストホープ』の見解を、ご説明します。まず犯行推定時刻は、彩吹先生の証言から九時五十分から十時までの十分間です」 共有事項から丁寧に起点を置く。 「現場には、開いた窓と泥の付着があり、外部からの侵入および逃走を示す偽装工作が施されていました。しかしご覧のとおり、ここは二階。窓からの出入りは常人には困難です」 彼は軽く目を細め、茶目っ気を一滴落とす。 「――我々のチームの赤星くんなら別ですが」 「おう!」と胸を張る猛だが、室内には苦笑が生じ、それが和らぎをつくる。 「となれば、犯人は内部――この十分間に美術室のドアから出入りした、小鳥遊先輩、熊谷先輩、姫川先輩のいずれかである可能性が高い」 視線が再び三人へ返る。 「監視カメラと聴取の照合では、三名とも入退室時刻と滞在時間に大きな齟齬はありませんでした。問題は像の在不在の証言です。最初に入った小鳥遊先輩は『あった』。通過の熊谷先輩は『見ていない』。最後の姫川先輩は『なかったように思う』。――二つの断言は矛盾します。嘘か、あるいは誤認が混じっている」 青野は室内の反応を一瞥する。多くが同意の頷き。彼の脳裏では、「ここから先はモノが語る段」と、レールを先へ延ばす。 「鍵は『像がどこへ消えたか』。窓からの搬出は非現実的。退出時に像や大型荷物を持った者もいない。ならばこの部屋のどこかに隠された――という説が最有力です」 ここで青野は白河へ視線を送る。白河は小さく息を吸い、タブレットを差し出した。いまは言葉より、痕跡が雄弁だと知っている。 「結論から申し上げると、隠し場所は天井裏の換気ダクト――先ほど赤星くんが回収して証明しました。場所の特定は白河さんの観察によるものです。天井のスポットレール端の新しい擦過痕、壁高所の微小な新孔、換気ダクトの位置。三点を結ぶ導線が上を通す方法を示していました」 拡大写真に、光沢の違いが細い線となって浮かぶ。 「さらに、方法については、証拠が補強します。赤星くんが外のダストボックスから偶然見つけてきた小型滑車とテグス――おそらく、犯人がトリックに使用し、証拠隠滅のために廃棄したものと考えられます」 机上に置かれた金具と透明糸。もう少し発見が遅れていれば、ゴミの回収業者によって回収されていたであろう。赤星の偶然が冴え渡った形だった。 「像は約五キロ。小型滑車とテグスで二点支持にすれば、短時間で展示台から持ち上げ、天井沿いに移動してダクト前で停止できる。使用後の線材は強く引けば回収可能。――ただし、準備には時間が要る。天井器具に触れ、レール端と壁高所に仕込みをするには、事前にこの部屋で作業できる立場が必要です」 その瞬間、小鳥遊の笑顔が、ごく薄くほどけた。熊谷と姫川の表情は変わらない。青野はその微差を見逃さない。ここが押しどころ――と判断する。 「小鳥遊先輩。あなたは美術部員で、昨日この部屋にいた。そして本日は『忘れ物のヘラを取りに来た』と九時五十二分に入室。二分間あれば、仕掛け済みの線材に像を掛けて引き上げ、窓を開けて泥を付ける偽装を添え、線材を回収して退室できる。使用済みの滑車とテグスは、人目を避けて外のダストボックスへ。運悪く、我々の暴走特急が回収前に見つけましたがね」 青野の声音から笑みが消え、言葉は冷ややかに整う。室内に緊張が張り直される。神楽坂がわずかに眉を動かし、轟は腕を組んで黙したまま二歩後ろに体重を引く。 視線が一点に集まる。長い沈黙――やがて小鳥遊は肩で笑い、ぱん、と手を打った。 「あはははは! まいったなー!」 明るく、あけすけに笑う。その顔に滲むのは悔しさよりも、仕掛けを見抜かれた快哉。勝負を楽しむ目だ。 「まさか天井裏までバレるとはね! しかも捨てた滑車まで拾われるなんて! いやー、参った、参った! ――そこの無口な分析屋さん、観察眼は本物。あたしでも気づかない傷を拾うなんてね。で、そっちのパワー系! 本当に天井裏に行っちゃうし、飛び降りたついでにダストボックスまで漁るとは思わなかったよ!」 白河は頬にわずかな紅を差し、しかし目は逸らさない。自分の観察が誰かの行動を動かした、その手触りが、胸の奥で温かい。 一方の猛は「やっぱり俺の出番は最後に来る」と腹の底で得心する。 そして、青野は――ここまでの糸が綺麗に結べたことに満足しつつ、まだ残る「動機」と「一人でも遂行可能かの細部」を後工程として頭の片隅に立てておく。 「――そこまで! 演習終了!」 鬼瓦教官の一喝が、美術室の空気を一気に収束させた。 「ラストホープ! 見事な解決だ!」 一拍の静寂。つづいて波のようなざわめき。驚嘆、称賛、唸り、さまざまな音が重なる。上位チームの何人かは素直に手を打ち、何人かは「次は負けない」と目の色を変える。 落ちこぼれと見なされていた三人は、それぞれの個性――白河の観察、青野の設計、猛の到達力――を一本の線に結び、互いの弱点を覆い、最初の試練という壁を越えた。 まだ道は続く――だが、この瞬間、彼らが『チーム』になったことだけは、室内にいた全員がはっきりと理解していた。海は陽光を砕いてきらめき、サンシャインフラワー号は、ゆっくりと陸の匂いを振り落としていった。 カフェスペースの窓際で向かい合う猛と西園寺の間には、さっきまでの鋭い言葉の応酬が嘘みたいに、わずかな落ち着きが漂い始めていた。 猛は、ストローで氷をつつきながら、窓の外に目をやった。島が近づくのはまだ先だ。それでも船のエンジン音と、床から伝わる微かな振動が、確実に前へ進んでいることを告げる。「……でさ、お嬢」 つい、口が滑った。 西園寺の目が、ぴくりと吊り上がる。反射だけで殺せる勢いだ。「……その呼び方、まだ続けますの?」「いや、ほら、なんか――」 猛が言い訳を探している、そのときだった。 どっと、空気が変わった。 通路の奥から、車輪の転がる音、笑い声、誰かが「重っ!」と叫ぶ声が一気に押し寄せてきた。船内の静けさを突き破るような、若い熱量の塊。カフェスペースの客が一斉にそちらへ視線を向ける。 現れたのは大学生らしき五人組だった。軽装なのに荷物だけが異様に本格的で、ケース、ケース、またケース。ギターケースの細長い背中、丸いドラムケース、そして人一人入るんじゃないかというほど巨大なキーボードケースまである。 彼らは、まるでこの船をステージの控室と勘違いしているかのように、遠慮なく賑やかだった。「ったく、誰だよこんな早朝の便にしたの。眠いって言ったよな俺?」 先頭にいた男――音羽響――が、わざとらしくため息をつき、周囲に聞こえる声で言った。髪はやや明るく、服装はシンプルなのに、動きと態度が妙に派手だ。「便は早い方がスタジオ借りられるんだよ。合宿先、機材の搬入もあるし」 音羽の斜め後ろで、落ち着いた声が返った。細身の男――調辺律――が、手帳とスマホを見比べながら話している。 視線がいつも計算しているように動き、声には癖がない。周囲に合わせているようで、自分のペースを崩さない。「ねえねえ、聞いて聞いて! 船の揺れでさ、ド
七月下旬。梅雨の湿り気は抜けたはずなのに、不知火探偵学園の空気にはまだ、張り詰めた余韻が残っていた。 期末考査の結果は夏季休暇明けに発表――その一言が、解放感の裏に小さな棘を残している。 だが、暦の上では夏休みだ。 猛は、寮の廊下を大きな荷物を抱えて歩きながら、肩に食い込むベルトをぐいと持ち上げた。ボストンバッグにリュック、さらに手提げ。 学園生活で増えた道具と、島に持ち帰る土産めいたものが詰まっている。汗が首筋を伝い、シャツが背に貼り付く。 それでも足取りは軽かった。 実家は離島。帰省は年に数回、長距離フェリーに揺られての移動が、彼にとっての夏の始まりだ。潮の匂い、鉄の響き、海鳥の鳴き声。学園の息苦しさが、海風に削られていく気がする。 港に着くと、白い船体が陽光を受けて眩しかった。側面に大きく書かれた船名――『サンシャインフラワー号』。派手な名前にしては、どこか実直な厚みのある船だ。車両甲板へ吸い込まれていくトラックのエンジン音が腹の底に響き、出航前のざわめきが港の熱気に混ざっている。 猛は乗り場の案内板を見上げ、指定された列に並び、チケットを出し、流れに乗ってタラップを上がった。 午前九時。乗船完了。 通路には冷房の乾いた空気が満ち、外の熱が嘘みたいに引いていく。猛は一度、窓際に立って港を眺めた。まだ船は動かない。なのに、甲板のどこかで鳴る金属音だけで、もう遠くへ行き始めている気分になる。 そして――低い汽笛。 胸が軽く鳴った。出航だ。 船が岸壁から離れる感覚は、地面の上とは違う。微かな揺れが膝に伝わり、窓の外の景色が、ゆっくりと後ろへ流れ始める。猛は荷物を肩から下ろし、客室フロアへ向かった。席で少し寝るか、売店で何か買うか。夏休み初日の予定は、それだけで十分だった。 ……そのはずだった。 船内のカフェスペースに差しかかったとき、猛は思わず足を止めた。 人混みの向こう、窓際の席に――見覚えのある顔があったからだ。 華や
『――これにて、一泊二日の実地調査演習を終了する!』 鬼瓦教官の演習終了を告げる声が演習用デバイスから響き渡ると、張り詰めていた食堂の空気が、ふっと緩んだ。 猛、青野、白河の三人は互いの顔を見合わせ、安堵と達成感の入り混じった息を深く吐いた。疲労はピークに達している。 だがそれ以上に、閉ざされた館で成立していた密室殺人の謎を解き明かしたという充足感が、三人の全身を温かく満たしていた。 やがて管理人や滞在者たちは、役目を終えた者らしい軽い解放感を滲ませた表情へと切り替わっていく。彼らもまた不知火探偵学園の卒業生であり、今回は演者として協力してくれていたのだと、三人はここで改めて理解する。「やれやれ、終わったか」「お見事だったね、ラストホープ」 そんな声が、先ほどまでの殺伐としたやりとりが嘘のように柔らかく響く。 管理人役を務めていた黒田も厳格な表情をわずかに緩め、三人へ歩み寄った。「まずは、ご苦労だった、ラストホープの諸君」 黒田は重々しい口調で切り出す。「今回の演習、貴様らは見事に真相にたどり着いた。評価としては……まあ、及第点といったところだろう」 その言葉を聞いた瞬間、猛の胸には小さな不満が跳ねた。あれだけ走り回り、煤と埃にまみれ、追い詰めて得た結末が及第点という言い方で片付けられるのは、どうにもむず痒い。 とはいえ、厳格な先輩からの評価としては、むしろ上等なのかもしれないとも思い直す。自分の中にそんな冷静さが生まれていることに、猛自身が少し驚いていた。「だが、課題も多い」 黒田は容赦なく続けた。「特にチーム内での情報共有の速度や仮説構築の柔軟性に関してはまだまだ改善の余地がある。今回の経験を糧に、さらなる精進を期待する」 厳しい指摘は、同時に期待の表れにも聞こえた。最下位の三人を伸びしろがある対象として扱っている――それだけで、白河の胸には小さな火が灯る。 青野は、黒田の言葉を淡々と受け止めながら
決定的証拠になり得るタバコの吸い殻を手に、ラストホープの三人は埃っぽい隠し通路を後にし、再び一階の食堂へと向かった。疲労の色は濃い。 それでも、真相へ手が届いたという確信と、最後の局面へ踏み込む緊張が、三人の足取りを確かに前へ押し出していた。 食堂には、管理人の黒田と、他の滞在者――鷹宮、綾小路、久我――が集められていた。重苦しい沈黙の中、三人を迎えた視線はそれぞれ異なる。 綾小路は怯えを隠しきれず、久我は沈痛さの奥に警戒を滲ませ、鷹宮は表情を整えたまま、こちらの出方を測るように静かに見据えている。「皆さん、お集まりいただきありがとうございます」 青野が場の中心に進み出て、落ち着いた声で切り出した。取り乱しのない口調は、ここまで積み上げてきた推理に自信がある証でもあった。「皆さんにお集まりいただいたのは他でもありません。財前様殺害事件を引き起こした犯人がわかりましたので、我々の見解を説明させていただきます」 その一言で、食堂の空気が張りつめる。誰もが息を潜め、青野の次の言葉を待った。「まず、事件現場となった書斎の状況です。ドアには鍵と閂、窓にも内側から鍵がかかっており、一見すると完全な密室でした。しかし――」 青野は、あたかも暖炉の向こうを示すように片手を動かした。「我々の調査の結果、書斎には設計図にも記されていない『隠し通路』が存在することが判明しました。暖炉の奥が回転扉になっており、隣接する使われていない和室へと繋がっていたのです」「隠し通路だと!?」「そんなものが、この館に……?」 綾小路と久我が声を上げる。驚きは純度の違いこそあれ本物だった。鷹宮だけが目元をわずかに細め、反応を最小限に抑えたまま聞き役に徹している。「犯人は財前様を殺害後、この隠し通路を利用して書斎から脱出し、密室を偽装したのです。そして、その通路の存在を隠蔽するために、我々にある工作を行いました」 青野の視線が、まっすぐ鷹宮へ向く。「我々が館の設計図の提供をお願いし
目の前に開かれた、暗く未知の通路――それは、この『黒百合邸』に隠された秘密であり、財前殺害の密室トリックを解く鍵でもあった。 猛、青野、白河の三人は、ごくりと息をのみ、その暗闇の先を固く見つめていた。 青野は腕時計に視線を落とす。画面に表示された残り時間を見て、内心で冷静に計算を始めた。制限時間まで、あと二時間ほど。 通路の調査、犯人の特定、推理の構成――やるべきことはまだ多く、余裕などないと理解している。だからこそ、ここで足踏みするわけにはいかなかった。「よし、俺が先に行く!」 焦りよりも前に、身体が反応したのは猛だった。決意を固めた彼は、ペンライトを握りしめると、ほとんどためらいも見せず、その狭い通路へと足を踏み入れる。「お前らも気をつけろよ!」「ええ、もちろんです」「……はい」 二人の返事を背に受けながら、猛が先頭を行き、青野と白河が後に続いた。 通路の中は、想像以上に狭く、そして埃っぽい。大人が一人、肩をすぼめてようやく通れるほどの幅しかない。壁は古びた木の板で覆われ、床には長年の埃が厚く積もっている。 鼻腔を刺すのは、かび臭さと古い家特有の湿気を帯びた匂い。頼りになるのは、手にしたライトの心許ない光だけだ。「うおっ、危ねぇ! 急な段差だな!」 先頭を進んでいた猛が、足元の段差に取られて危うく転げそうになる。暗闇のせいもあるが、そもそも慎重に歩くことが得意な性格ではない。「赤星くん、あまり派手に動かないでください。痕跡が消えてしまいます」 青野が、いつもの落ち着いた声で制した。彼の頭の中では、この通路が『犯人の通り道』である可能性が高い以上、床や壁に残った微かな情報を失うことは致命的になりかねない、という判断が働いている。 一方、最後尾の白河は、静かな緊張の中で視線を床に這わせていた。ライトを滑らせながら、壁や床、板の隙間、埃の積もり方を一つ一つ確かめていく。 彼女は、通路が頻繁に使われてきたものではないが、今回
「我々の次のターゲットは――あの暖炉です! そこに、この密室を解く鍵が隠されているはずです!」 青野の力強い宣言を受け、ラストホープの三人は書斎の奥、重厚な存在感を放つ古い暖炉の前に集まった。 長い間使われていないのか、炉床には灰が薄く積もり、石組みの隙間には煤がこびりついている。鼻をくすぐるのは、古い煙と埃の入り混じった、どこか湿った匂い。 ぱっと見た限りでは、ここはただの古風な暖炉にしか見えない。「白河さんの分析通りなら、この暖炉周辺に、設計図にはない秘密が隠されているはずです。徹底的に調べましょう」 青野が改めて指示を出す。 白河は無言で頷き、タブレット端末を片手に、現物の暖炉と、先ほど取り込んだ図面データを交互に見比べ始めた。 視線はミリ単位でレンガの段差や目地の幅を追い、指先でそっと煤を払っては、実際の寸法と図面上の数字を頭の中で照合していく。 彼女は、レンガの積み方の中に、ひときわ違和感のある一角を見つけていた。そこだけ目地のセメントの色が、他より僅かに新しい。 さらに、暖炉内部に手を入れた際の距離感から、図面に記された奥行きより、実際の奥行きが浅いのではないかと推測する。 つまり、この奥には何かが埋め込まれているか、隠されている可能性が高い――彼女の分析はその方向に収束しつつあった。「よし、物理的な調査は俺に任せろ!」 猛は手袋をきゅっとはめ直すと、躊躇なく暖炉の中へ身を潜り込ませた。煤で顔や服が汚れることなど、彼にとっては取るに足らない問題だ。「うわっ、中は結構広いな……って言っても、人が隠れられるほどじゃねえか。奥は……壁だな」 ペンライトで内部を照らしながら、壁や床を手で押し、擦り、叩く。 やがて、ゴンゴン、と鈍い音が書斎の中に響き始めた。「ん……? ここと……こっちじゃ、音が違うぞ!」 猛は、暖炉の奥、向かって右側の壁を指さした。「こっちは詰まった音がするけど、こっちは……なんかポコ